2011年7月17日日曜日

湿気は大敵


 はじめまして。編集をやらせていただいておりますogと申します。
 大学では高分子の合成に関する研究をしております。
 皆さんは、もう少しで夏休みでしょうか?
  暑さに負けずに頑張ってください(特に受験生の皆さん)。

 私たち有機合成に携わっているものにとっても、夏はつらいシーズンです。
 合成反応の中には湿気を嫌う反応が多く、私たちの研究室でも湿度が高い夏には失敗する確率が上がってしまう実験があります。その中でも代表的なものが下の例に示すようなアニオン重合とよばれる重合実験です。
   
 反応式で書くと簡単そうで、操作も基本的には冷やした溶媒(THFなど)に開始剤(ブチルリチウム)を加え、最後にモノマー(スチレン)を滴下して15分ほど待って終了です。難しい操作は特にないのですが、実は下準備に結構時間がかかる実験です。この実験で使用する溶媒であるTHFやモノマーであるスチレンには、「痕跡」の水も含まれることが許されません(実は酸素もです)。そのため、結構物騒な金属ナトリウムや水素化カルシウムを使って不活性雰囲気下(窒素やアルゴンなど)、「脱水蒸留」して精製します(密閉して保存しても、いつの間にか水や酸素が入ってくるので、できれば実験の直前に行います)。合成に使うフラスコや注射器(試薬を加えるのに使います)も完全に乾燥させる必要があります(真空下で高温にしてガラスに吸着している水を取り除きます)。

 そのように準備をしていざ実験を始めてみても、どこかの段階で「水」が取り除けないと実験は失敗します。最初に書いたように湿気の多い夏には失敗する確率が高くなります。実験の失敗といってもいろいろとあるかと思いますが、この実験では成功の場合、収量がほぼ100%になりますが、失敗の場合は0%(何も取れない)となり、まさに運命の別れ道となるわけです(all or nothing)。

「失敗を恐れてはいけない」ともいわれますが、この種の失敗は相当へこみます。実験の片付けをする心持も相当変わりますよね。もちろん、「成功の喜び」も大きいのはいうまでもありません(これがなければやっていけない)。