2011年8月11日木曜日

来て・みて・試して・考える 最先端分析科学の世界 (その1)


みなさんこんにちは。委員長の内山です。今回は私の専門である分析化学の行事に関する話題を取り上げたいと思います。

この5月に,世界中の分析科学に関係する研究者,技術者,企業の方が集まり,最新の分析科学の動向について,研究発表や討論・紹介をする国際分析科学会議2011(ICAS2011)が開催されました。私も分析科学者の一員として,自分の研究発表をするとともに,科学普及活動を企画し,その責任者になりました。
その内容は,最先端の分析機器を使って実験し,考える場を提供し,更に著名な研究者から若い人へのメッセージを送ってもらうというものです。私たちはこの公開講座を“来て・みて・試して・考える 最先端分析科学の世界”と名付けました。
学会でも,分析機器メーカーにとっても初めての試みです。また,国際分析科学会議は10年に一度開催され,国内外から1000名以上の参加者が見込まれ,数多くのセッションが計画されているため入念な準備が必要であることから,3年以上前から準備を開始していました。


学会の準備なんて,それほどたいしたことがないように思われるかもしれません。しかし現実に動いてみると,結構骨の折れる仕事だということがわかります。まずは会場を確保しなければなりません。1000名以上の参加者を収容できる国際会議場となるとそれほど多くはありません。今回は場所が京都と決まっていましたので,京都国際会館になりました。
また,国内外から旬の研究者をリストアップし,来ていただけるかどうかのスケジュール調整をしなければなりません。これは分析化学のそれぞれの専門分野の先生方にお世話いただくことになります。その他レセプション,見学会,予稿集,プログラムなどの手当,招待講演者の対応なども必要です。
公開講座では,当初分析化学の分野でノーベル化学賞を受賞された田中耕一さんと下村脩先生に一般市民向けに講演していただこうと思っていました。
その後,一般市民向けより対象を絞り込み,これからの社会を担う若い人特に高校生・大学低学年生を対象とすることになりました。更に講演会で話を聞くだけではありきたりで,分析化学会として行わなくても他に機会があるので,分析化学としてできることをすべき,などの意見を頂きました。

私の回りの分析化学以外の研究室を見渡すと,実際に行っている研究の何割かは分析化学を行っています。例えば有機・無機生成物の構造決定に核磁気共鳴スペクトル測定や質量分析法,ナノ構造体の評価に電子顕微鏡,種々の分離に液体クロマトグラフィーやガスクロマトグラフィーなどなど,高度な研究になればなるほど最先端機器を使用して評価するのです。しかも一昔前のように高度に専門知識を持ったオペレータが必要ということもなく,学生・大学院生にも使いやすいものに進化しています。
分析科学は縁の下の力持ちどころでなく,最先端研究には欠かせないツールなのです。しかもこのようなツールの開発に対してノーベル化学賞が与えられています。それならば,このような分析機器を実際に操作し,会場で実験してもらうのはどうかと考えました。ただ単に実験しておもしろかったというのではなく,その機器の成り立ち,原理,応用性など機器の背景にある哲学を一緒に学べるような内容とすることにしました。
このような内容としたのは昨年の夏休み前頃でした。京都国際会館の講堂を使ってこれを実施するには,20台程度の機器が必要になります。


国際会館という実験室でもない国際会議場に,高度な分析機器を持ち込むだけでも大変そうなのに,実際にそれを用いて意味のある実験することを考えると,超大型機器はその選択肢から外れます。また廃液を大量に発生するものも望ましくありません。また高校生に最先端の分析機器を体験・理解してもらうための内容の吟味・精査も必要です。
このような観点から多くの機器メーカーを訪問し,趣旨を説明し,お願いして回りました。京都まで分析機器を運び,そこで説明と実験をする人に来ていただきを,上記のようなテキストを作製して高校生に理解していただく。終了後は撤収して元に戻す。
これらのことをすべて自前で行っていただく(費用はこちらで負担しない)という,いわば大変虫のいいお願いです。さすがに初めのうちは,なんと厚かましいお願いをしているのだろうと気が引けました。しかし,趣旨を説明し話を進めると殆どの企業の方は大きく賛同され,逆に励まされたり,他の分析機器メーカーを紹介してくれたりしました。企業の方々もこのような機会を待っていたかのようでした。
最終的には分析機器工業会という分析機器メーカーの集まりに全面的な協力をいただくこととなり,多くのメーカーに参加いただくことができました。

2011年があけ,博士論文,修士論文,学士論文の審査会,期末テストなどの行事を終え,卒業式も近づいた3月のある日,突然大きな揺れを感じました。
私は大学の研究室のオフィスにいて調べ物をしていました。いつもより揺れは大きいものの,たいしたことはないだろうと高をくくっていましたので,はじめは倒れてきそうな棚の上の荷物を手で押さえていました。
しかし思ったよりも揺れは大きく,その時間も長く,棚の上の手で押さえていない荷物がどんどん落ちて来るのをみて,慌てて窓を開け,外へ飛び出ました。関東より北にお住まいの皆さんも私と同じようなことだったかもしれませんね(もっと気をつけている?)。東北地方沖を震源とする大震災です。その後,木更津の石油基地が爆発炎上,津波による大災害,福島の原子力発電所の事故などつぎつぎと大きな災害が起こりました。国際会議まで残すところ2ヶ月にせまった311日でした。

大震災により東北地方沿岸を中心に多くの町が失われ,電気も道路も不自由となり,更に福島原子力発電所では核燃料の露出が起こった中で,残すところ2ヶ月先に開催予定のICAS2011は開催できるのだろうかと,正直に思いました。
実行委員会でも開催すべきである,すべきでない,延期してはどうかなどたくさんの意見が出されましたが,最終的には予定通り開催することになりました。どなたかが,“日本全体を一つの大きな船と考えると,,船体と船員の一部が傷ついてしまったときに,他の船員は傷ついた船体を修復し,被災した船員の分まで働かねば元には戻らない”という意味の考えを披露していただいたことも,実施する一因となったのかなと思います。
このような考えは日本人特有のものなのかもしれませんが。また,特に原子力発電所の事故については国内外で非常に高い関心が寄せられていることから,分析科学としても正確な情報を社会に発信すべきであるという趣旨のもと,ICAS2011に特別セッションを設け,私の担当している公開講座でも特別講義を追加しました。

紆余曲折があったものの最終的に以下のようなプログラムとなりました。

522()
第一部 最先端の分析機器を体験しよう(午前10時~,終了後第2部へ移動)

1-1 島津製作所,堀場製作所オープンラボラトリー

1-2 国際会館オープンラボラトリー
走査型電子顕微鏡,紫外・可視分光光度計,蛍光光度計,フーリエ変換赤外分光測定装置,原子間力顕微鏡,pH測定装置,赤外イメージング装置,DNA分析装置,イオンクロマトグラフィー,はやぶさなど

第二部 著名研究者からのメッセージ(午後~)

[The Challenge of Sustainability]
リチャード・ゼア先生(スタンフォード大学)


「緑色蛍光タンパク質の誕生」
下村脩先生(2008年度ノーベル化学賞)
「電子顕微鏡でカーボンナノチューブを見つける」
飯島澄男先生(名城大学・産総研)

3 特別企画

「福島第一原子力発電所事故による環境の放射能汚染:過去の放射能汚染と比較して」
広瀬勝巳先生(上智大学理工学部)

つづく
代理投稿 JIMU

0 件のコメント: