2010年12月14日火曜日

低炭素社会って???

こんにちは。初めて投稿するマチカネ博士です。ちなみに、みなさんは「マチカネワニ」をご存知ですか?1964年に日本で初めて発見された巨大な(7メートルほど)ワニの化石です。豊中市の待兼山付近から発掘されたので、その地名をとってマチカネワニと呼ばれています。45万年前に生息していた世界的に見ても貴重な化石標本です。わたしは、その実物化石を展示している博物館に勤めています。この化学だいすきクラブの編集者の一人ですが、日頃は博物館に来てくれる一般市民や小中学生を案内したり、展覧会の企画を考えたりして忙しくしておりますので、編集のお手伝いはあまりできません。そこで、罪ほろぼしに、最近ちょっと考えていることを書いてみます。
新聞やテレビでよく「低炭素社会」ということばを見かけますね。たぶん、二酸化炭素の削減、省エネルギー、環境保護(エコ)などに関連した用語だと思うのですが、変なことばだと思いませんか?誰がつくったことばか知りませんが、わたしには違和感があります。このような用語が氾濫することで、化学の正しい理解からみなさんを遠ざけているような気がしてなりません。
みなさんの身の回りを眺めれば、ほとんどが炭素の化合物からできたもので囲まれています。人間自身も炭素化合物(たんぱく質、DNA、脂肪、炭水化物、など)なしには生きてはいけないのです。つまり、「高炭素社会」だと思いますが、いかがでしょうか?低炭素社会にするということは、金属や石ころなど炭素以外の元素からなるもので社会を構成するという意味になります。しかし、よく悪者あつかいされる二酸化炭素ですら、植物にとってはなくてはならないものです。炭素はすばらしい元素なのです。
今年のノーベル化学賞は「クロスカップリング」の発展に寄与された鈴木先生と根岸先生が受賞されたことは、みなさんもよくご存知でしょう。この反応は、いわゆる「炭素−炭素結合」をつくるためのもので、医薬品や液晶など有用な炭素化合物を合成する際に広く使われています。その根岸先生も新聞で話していましたが、多くの化学者の夢は、二酸化炭素と水から直接有機化合物を合成することです。植物はいとも簡単にこれを行っている(光合成)のですが、まだまだ人間は実現しておりません。いかにして「高炭素社会」をつくるかが化学の最大の課題の一つと言ってよいでしょう。
わたしが勤める博物館ではサイエンスカフェを土曜日に開催しています。そこで近隣の市民と科学の話をする機会が多いのですが、環境や健康に関して奇妙な用語を用いた似非(エセ)科学・にせ科学が横行していることを感じさせられます。科学(化学)を正しく理解しておれば、そのようなインチキ商品には引っかからないと思うのです。少し難しいことばで言えば「科学リテラシー」の向上にとって、「低炭素社会」なる用語は逆行しているように思えてなりません。したがって、「低炭素社会をめざして」というようなキャッチフレーズを耳にすると、違和感を覚えるのです。わたしはへそ曲がりなのでしょうか。みなさんはどう思われますか?

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